Utsuwa Labo

The Future of Pottery

陶芸家・田中雅文さんの「Cloud」
-December 01, 2018 At Masafumi Tanaka Studios

”作りたかったのは、未来の器”

陶芸家・田中雅文さんと創造するアートとデザインと器の間にある未来の形。

ー 田中雅文さんの未来の器「Cloud」を読み解く。
2018年に発表された陶芸家:田中雅文さんの新シリーズ「Cloud」。今までのフォルムから逸脱したデザインはどこから生まれて来たのか。少し先の未来の器を提案する。
ー 始まりはグループ展で和食器のルーツを巡ったこと。
陶芸家:田中雅文さんの器といえば、洋食器にも負けないスタイリッシュなデザイン性にカラフルな色彩を織り交ぜた器が目を惹きつけるが、2016年ー2017年に行われたグループ展には、「Mame」「お湯のみ」「お茶わん」など和食器のスタンダードと呼べる器をを田中雅文さんの持つ現代の技法を駆使して発表した。
ー スタンダードな器を作って見えた世界。
今までの洋食に合うスタイリッシュな器と、朝ごはんをテーマにした和食器スタンダード。この二つの世界観が見えた時、僕は、田中雅文さんにある提案をしてみた。「日本の器の多くは、今まで過去に作られて焼き物からのインスピレーションを受けていて、過去の写し(陶器の形状や模様・図柄を模倣した作品)だったり、海外の器だったりします。次は未来の器を作りませんか?」と。
ー 田中雅文さんと創造する未来の器。
「未来の器」こんな提案を持ちかけたのには、いくつか理由がある。彼の器制作は、鋳込みと言う技法を使って制作するのだが、器のフォルムとなる石膏型を作る際にコンピューターを使い図面を作る。幼い時からコンピューターが手元にある世代だからこそ、陶芸にも必然的に要いる。今まで大量生産の際に使用した技術が、個人作品で駆使できるわけだ。
また、彼の技法の特徴として、驚くほどの軽さを実現するレイヤーシリーズがあり、レイヤーとは、二つ制作された器をもう一度重ね合わせて成形し、新しい器のフォルムを作り出す。また器の中に空洞が生まれることで余分な土をカットして、軽量化されている。しかし、この二つの器を重ねると言うのは、細かな計算の上、はじき出された設計をもとに、1ミリ単位で作業は進んでいくことになる。
ー アートとデザインと器をコネクトする。
彼の仕事は大きく分けて2つの分野に分かれる。一つは、食卓を豊かにする食器を作ると言う仕事。もう一つは、CONGLOMERATEなどのアート性の高い作品だ。この二つの分野、食器とアートをつなげたものが、未来の器なんじゃないかと、僕は思考していた。食卓に食器として並んでも驚かれて、空間に置いても、いわばホームスペシフィック・アートになる器を。
ー 陶芸以外の分野にもコネクトする。
彼の道具の扱いは、専用道具を作ってしまうほど、陶芸マニアなのだが、その他にも映画やアニメなどプロジェクターに映しながら作業をするほどだ。そんな彼に、未来の器を想像してもらったらどんな器ができるのかが見てみたくなったのだ。
ー 創造する未来の器。
僕らが打ち合わせを始めて最初に考えたのは、遠くない未来、もし器を使うとなればどんなものなのか。やはり今とは違う食卓の形があって、もう少し食卓もデザインされているのではないか。思いついたのは、80’アニメや映画に描かれていたような丸みを帯びたデザインに、レイヤーシリーズで実証済みの浮遊感を感じれるような軽さ。器を使うことで、驚きと料理のイマジネーションが沸くようなアートのようなデザイン性。ここから試行錯誤しながら器デザインを煮詰めていった。
ー プロトタイプからの思考。
作品の目安となるプロトタイプが出来上がって、基本的な形状が決まった。コンセプトは「雲」。食卓に雲の存在感を示して見たのだ。しかし、まだどこか納得がいかない。美しい円形のデザインであるが、自分たちの想像を超えるまでには、届いていなかったのだ。そこに一つのアイデアが生まれた。「僕らの未来は、映画やアニメでデザインされた世界よりも、もう少し有機的なものなんじゃないか?」
ー 洗練されたフォルムに、有機的なラインを。
初期プロトタイプのディティールを残しながらも、有機的なデザインに仕上げられていく。具体的に言うと、表正面には、食卓に浮かぶ雲を連想させ、器の底面は、ナチュラルな自然を感じさせる果実をイメージし、滑らかでオーガニックなラインに仕上げられていく。この底面とボディを重ね合わすのに、数ミリ単位で合わせていく。何百回と繰り返しテストしていき、器のクオリティがアート(個体)とプロダクト(量産)の間までになるよう、田中雅文さん自身の手に馴染ませていく。
ー これは、未来の器。
様々なテストを繰り返し企画から制作まで1年を経て完成させた器は、「Cloud」と命名にした。その器は、有機的かつ静寂をも持つ存在感のある器に仕上がった。まさに目指していたアートとデザインと器をコネクトした作品となったんではないだろうか。個でも複数でもその空間のイメージを広げ、食器としては、少し先を行くデザインで、これからどんな料理を盛ろうかと嬉しい悩みを与えてくれる。また、「cloud」には、少し食器の方に傾けた「Cloud5.5」「Cloud8」のバリエーションも持たせた。ぜひ、食卓や空間で、アートと器をコネクトした生まれたばかりの作品を体験してほしい。